地域コラボレーション
WITH YOU TO YOU.
地域と共に、あなたに。
- 有限会社 藤井リボン
- 藤井 智康さん
戦国武将、眞田昌幸・幸村父子が生んだ“強い紐”
「眞田紐」とは、“眞田の作った強い紐”のこと。 戦国時代、眞田昌幸・幸村父子が、武具や甲冑(かっちゅう)を留めるために考案したといわれます。鎧や兜、刀が緩んで外れてしまわないように、それらを結び留める紐は強く、丈夫でなくてはなりません。紐が緩んだり切れたりしてしまえば、命を落としかねないから。「眞田紐」は、いわば戦国武将たちの“命綱”だったのです。そんな風に聞けばさも重要なもののように感じますが、それはとうの昔の江戸時代の話。現在、眞田紐は、茶器や工芸品などの桐箱を結ぶ箱紐として、また帯締めや帯留めとして利用されています。つまり、現代社会にはそれほど一般的に広く普及していなければ、認知度も低いのが現状。「このままでは“眞田紐”という日本の伝統工芸が消えてしまうーー」。漠然と、しかし確実に迫りくる焦りに立ち上がったのが、「(有)藤井リボン」の四代目、藤井智康さん。繊維産業が盛んな備後地方の同業者と手を取り、今ある技術を生かし新たな価値をクリエイトする団体「和楽美」に参加しました。
日本人の美意識を映し出すカラーリング
「眞田紐」は、紐とは言えど織物の一種。細いタテ糸と太いヨコ糸を組み合わせて平織りすることで、強度のある細巾織物=眞田紐となります。眞田紐の一番の特性は、糸の組み合わせによって色柄をある程度自由に表現できること。シンプルに一本筋の入ったストライプ柄もあれば、細かな格子状の柄、レトロでポップな印象を与える市松柄など、単純に「紐」や「リボン」の枠で考えつかないカラフルさを持ち合わせています。 ちなみに、古くは戦国武将たちにも色柄の好みがあったようで、武家ごとに固有の柄を使っていたとか。さらにはお茶の世界にも、各流派や各作家でのみ使うことができる特有の柄「約束紐」なるものが存在するそうです。色の組み合わせ、柄の表情に自らの美意識を反映させるーー。眞田紐は日本の文化そのもの……とは大袈裟かもしれませんが、わが国らしい美と繊細さが宿っていることは間違いないようです。
伝統工芸の価値を変える、新たな決意と挑戦
「(有)藤井リボン」の四代目、藤井智康さんが最初に考案したのが、その眞田紐を使った帽子。細巾の紐でぐるぐると円を描くようにつばを作り、立体的に形成すれば……カラフルで丈夫な帽子の出来上がり! 地元の帽子製造業者とタッグを組み、そのアイデアを実現させました。そうして生まれた「眞田紐帽子」は話題を呼び、眞田紐バッグをはじめ、バレッタなどのヘアアクセサリーやストラップ、コースターなど、新アイテムが次々と誕生。2011年に立ち上げた自社ブランド「Various Change」は、福山市内をはじめ周辺地域にも徐々に知られるようになりました。実は、福山市役所の職員が首から提げているネームタグの紐も眞田紐。地元百貨店に開いた特設コーナーでは眞田紐アイテムが予想以上の人気を見せたりと、「眞田紐」は町に知られ、認められ、使われるようになっていったのです。
緻密で正確な技と情熱で伝統を紡ぐ
「生まれた頃から両親や祖父母が眞田紐を作っていたので、僕はそれ自体を珍しいものとはまったく思っていませんでした。自社製品として淡々と量産していたものが、仲間たちの助けもあって“今ある技術で新しいものを作る”という挑戦のきっかけになった」と藤井さん。ちょっと照れくさそうな表情の中に、少年のような好奇心が光っています。帰り際、藤井さんが100年を超える自社工場を案内してくれました。梁がむき出しの木造建築の中で、年季の入った織機がガシャンガシャンと音を鳴らしています。「これが眞田紐の織機。何十年ものだけど、新しいモデルが生産されていないからこれでも最新型よ」と笑います。実際に眞田紐を織り始めると……藤井さんの表情が一変。キッと厳しい目つきで、片時も織機から目を離しません。「眞田紐は、丸1日かけても60m×6本、計360mしか織れない。少しでもズレが生まれると、太さも柄も歪んでしまって、見た目の美しさが損なわれるから。幅を合わせて、糸を締めながら、傷をつけないようにじっくり慎重に織るんです」。お話を聞いている間も、こちらではなく織機に釘付けの藤井さん。これが職人の目であり、仕事に情熱を注ぐ人の姿である。室温3度の冬の工場で、白い息を吐きながらひたすらに手を動かす背中に、背筋を正されました。
(有)藤井リボン × ANCHOR HOTE
ANCHOR HOTELの館内着には、背中側の襟元に眞田紐のストラップがチラリ。このちょっとしたアクセントのおかげで、バックスタイルがセンスよくキマります。どの色柄のストラップと出会えるかはゲストルームに入ってからのお楽しみ。また、各ゲストルームに備えられた洋服ブラシなどのツールにも、眞田紐のストラップが添えられています。
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有限会社 藤井リボン
広島県福山市神辺町川南2866 / TEL.084-962-0026
1921年(大正10年)創業。元は絹織物や金襴などを製造する織元で、現在は眞田紐をはじめ、テープなどの各種細巾(ほそはば)織物を製造、販売する。2011年には自社ブランド「Various Change」を立ち上げ、伝統工芸の技術と現代のデザインを掛け合わせたアイテムを企画。価値の変換と創出を目指しチャレンジを続けている。